発達障害だった大学生
彼は東京都内の大学生でした。
彼の主訴は、普段の生活がうまく送れない、浪人、留年しながらも大学に入学、5 年かけて3 年生まで頑張って通っておられました。しかし、ご家庭のご事情で2010 年秋に東北のご実家に帰られた男性です。
当時の彼は、まだ障がい者認定を受けていませんでした。
ご実家から離れて大学のある八王子で、一人暮らしをしておられましたが、彼は同じくらいの年齢の学生が普通に送る生活を普通に行うことがとても大変だったのです。
朝起きて、トイレに行って、顔を洗って、歯磨きをする、朝食を食べて、身支度を整え、時間になったら家を出て、バスや電車などの交通機関を使って学校に行き、授業に出席し、ランチを食べ、授業が終われば、サークル活動に参加、友達と遊んだり、学校帰り寄り道をしたり、家に帰って、シャワーを浴びて、ゲームをして、テレビを見て、勉強してなど、
一般に良くある当たり前が彼にとっては、『地獄の作業なんです』との話しから始まりました
。
当時を振り返って一番辛かったのは、『当たり前にできないことを親にすら理解してもらえなかったこと、それをどうしてもやらないと学校を卒業できなかったこと』とのことでした。
誰にも理解してもらえない、病院に行っても「精神的な問題ですね」と言って、投薬はあっても具体的な説明も方法論も何もない。
普通と言われることを行うのが難しい、人と感じ方違う、感情が人と違う、相手の気持ちを理解することも自身を理解することも難しい、当たり前と言われることがわからない、人と身体感覚も反応も理解の方法も違う。
そんな彼に私は、自身の生活や感情の記録をとることはできますか?とお聴きしました。
彼は「そう言ったことは得意です」と言い、毎回宿題としてしっかりやってきてくれました。
書きこみはスーパーなどの細いレシートの裏、そこに一週間の出来事を細かいけれど丁寧な字で、びっしり書き込んで持ってきてくれました。
当時はまだ発達障害の認知度は低く、精神科の医師ですら彼は理解されずにおりました。
私は彼と一緒に彼の世界観を理解することから始めました。彼の日常がどんなものなのか、何に困っているのか、何をどうすれば彼にとって少しでもいい状況や環境をつくることが出来るのかなどを真剣に探し始めていきました。
頭の良い方で、一度覚えたことは忘れない。
心理療法は認知行動療法から始まり、彼の感覚を高めるために催眠療法や自律訓練法を行いました。
彼は感覚を掴むまで、何度も何度も練習してくれました。
再会したとき、
「先生から教わったことは、今でも毎日行っています。当時先生から教わったことは、すべて人生の指針となっています。東北に帰ってから、いろいろなところを探して先生に近いようなことを行っている先生にも出会うこと出来ました。また障がい者認定をいただいて本当に楽になりました。
今は仕事も始めて、僕の体験を同じ障害を持つ方々の前でお話をする機会をいただいて充実しています。また好きな音楽も漫画の活動も続けています。今回は東京駅で自主制作のCDを買ってもらったんです。」とCDを見せてくれました。
続けて、彼はお姉さんが亡くなられた話をされました。
「ご愁傷様でした、それは大変でしたね。差し支えない範囲で構いません、お話をお聞かせくださいませんか。」とお伺いすると、
「姉は震災で亡くなったのではないんです、自殺をしたんです。」と淡々と語り始めました。
「姉も僕と同じだったんです、結局姉を本当に理解してくれる人は現れず、ハルモニアさんのような方がいれば生きていられたかもしれません。僕は姉のことがよくわかる部分がありますが、姉の死を悲しむ感情は出ませんでした。」と語ってくれました。
カウンセラーとして、人の人生のさまざまな時期、状況に寄り添い、いろいろな方とセッションをおこなっておりますが、自身の未熟さに本当に成長しなくてはと思うとき、深い言葉にできない感情や感動が日々あります。
彼とのセッションを通して私は本当にたくさんのことを教わりました。
カウンセラーは立場上クライアント様やご家族様に「先生」と呼んでいただくことが多いのですが、私はクライアント様から学ぶことばかりで、私にとってはクライアント様、すべての方々が先生です。
今この瞬間にいろいろな事を体験して、いろいろな人と出会い、当たり前にいることは当たり前ではない。奇跡のような偶然の集合体なのだと改めて感じた夜でした。
人の心や体はおひとりおひとり本当にさまざまです。
自分のような悩みは誰にも分ってもらえないとお考えになられる方も多いかと思います。
カウンセラーとして、何年経っても、初心を忘れず、改めて心や身体の問題でお悩みの方、今苦しい中にいらっしゃる方に寄り添い、心、人生の伴走者として寄り添い、心のガイドを真摯に行っていきたいと、彼を思い出すたび思います。
今苦しんでいる方が迷いから少しでも抜け出すための指針になればと、
必要な方の心にどうか届きますように。
カウンセリングルーム ハルモニア
加藤 佳子
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